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インドネシア出張レポート|ジャカルタの大規模デモ発生から考えるインドネシア経済の構造的課題と出稼ぎ労働者増加の背景

  • 小雨 趙
  • 9月1日
  • 読了時間: 7分

スラマッ シア!(こんにちは)グローバークス代表の森永です。


8月17日〜24日の7日間、インドネシアへ出張いたしました。今回はジャカルタ、バンドゥン、バリの主に3都市を周り、9社の送り出し機関と1箇所の国営トレーニング施設を訪問しました。


現地の送り出し機関で日本語学習者たちの質問に答える森永
現地の送り出し機関で日本語学習者たちの質問に答える森永

そして、私が帰国した直後の8月25日、首都ジャカルタで学生を中心としたデモが発生。8月28日以降はさらに大規模なデモへと拡大し、9月1日現在でも混乱が続いています。


本ブログでは、現地で見聞きした情報をもとに、デモ発生の背景、インドネシアが構造的に抱える産業の課題、海外への出稼ぎが増える理由、日本への送り出しの今後の見通しについて考察してみました。


8月29日、首都ジャカルタで激化するデモの様子、ロイター
8月29日、首都ジャカルタで激化するデモの様子、ロイター

ジャカルタデモの概要

デモの発端は、高額な議員手当への反発とされています。国会議員が支給されている住宅手当の月額が最低賃金の約10倍に相当することが報道され、国民の怒りを招きました。


しかし、これはただのきっかけに過ぎず、根本には、生活コスト高、非正規雇用比率の高さ、税収負担の不公平感、実質所得の伸び悩みなど不満が蓄積していたと言われています。


足元では中国、ベトナム、バングラデシュ製品の流入などを受け、繊維など製造業を中心に業績が悪化しています。労働省によると、1〜6月の解雇者数は前年同期比32%増の約4万2000人であり、解雇者数の増加が生活不安として蔓延しやすくなっています。



国内製造業の弱体化

インドネシア国内の製造業は、かつて繊維・靴・電子部品といった労働集約型産業で多くの若年層の雇用を創出してきました。


同国のGDPに占める製造業の比率は2002年には約32%で最高値を記録しましたが、近年は製造業GDP比は低下しており、2024年では約19 %となっています。(出典:The Global Economy.com


その原因は、中国、ベトナム、バングラデシュ等との競争激化、インフラの制約(物流コスト、電力供給不安定)、資源部門への依存などの重なりと言われています。


結果として、雇用創出力の低下、中間層の縮小、非正規雇用の拡大し、若年層の国内でのキャリア形成を難しくする要因の一つとなっています。


製造業は本来、大量の安定雇用創出と技能習得を促進する性質が強く、中間層を増やすためには製造業の育成が重要と言われます。


インドネシアの農業は主に低スキル労働の受け皿となり地方の生活を支えていますが、生産性が低いこと気候変動や価格変動の影響を受けやすく雇用の安定性に欠けることが弱点です。


サービス業は、都市化と消費拡大に伴い雇用吸収力が大きく、デジタル経済(EC、配車・配送サービス)により新しい形態の雇用が生まれています。しかし、非正規雇用が多く雇用の質が不安定という弱点もあります。また、高スキル層は収入増に大きく結びつく一方、低スキル層は低賃金のままで格差拡大を招きやすいことが課題です。


製造業の比率の縮小により、労働者は低賃金かつ保障のない職(屋台商売、配達、臨時労働など)に流れやすくなっていると思われます。

さらにインフレ(特に米価、燃料価格)も相まって、「国内に留まっても生活改善が見込めない」という状況から、日本をはじめとする海外へ仕事を求める若年層が増えています。

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国策としての海外出稼ぎ派遣

インドネシア政府は、こうした国内の雇用不足を補うために海外労働者派遣政策を積極的に推進してきました。

介護、建設、製造、農業などで日本、中東、マレーシア、香港、韓国といった国々が主な受け入れ先です。

出稼ぎ労働は、失業率の抑制、外貨獲得、仕送りによる家族支援、などの役割を果たしており、国内雇用の弱さを補う国家のセーフティーネットとしても機能しています。


製造業の衰退→安定雇用の不足→生活不安→海外労働への依存増という流れが、構造的に定着していると思われます。


日本への流入増加の背景

技能実習制度1990年代から拡大し、建設、農業、製造、介護などでインドネシア人を受け入れてきました。日本にとっては「人手不足対策」、インドネシアにとっては「外貨獲得・雇用吸収」という利害が一致し、拡大してきました。


2019年に開始した特定技能制度では、インドネシア人の割合は常にトップクラス(約20%前後)を占めています。


2024年6月末時点の特定技能1号の総数は251,747人で、国籍別で最も多いのがベトナム人の132,920人( 46.9%)ですが、それに次ぐのはインドネシア人の53,496人( 18.9%)です。




特に介護分野ではインドネシア人が大きな割合を占めており、インドネシア人特定技能1号在留者が従事する業種の割合では、介護分野が最多で約22%、次いで飲食料品製造業および農業も約20%前後と高い比率です。


今後の展望

短期・中期にはインドネシアから日本への送り出しはさらに拡大し続けると思われます。特に介護分野での需要はまだまだ強く、今回インドネシアの各送り出し機関を訪問して実感した介護人材の豊富な供給力との相性は非常に良いと思われます。


実際、特定技能1号のインドネシア人在留者数は2022年から2024年の2年間で約3.7倍に急増し、全体に占める国籍別の割合も10.8%から18.9%へと急上昇、その増加率はミャンマー人に次ぐ2位です。

この傾向は、製造業の雇用吸収力低下により若年層の労働需要を国内で吸収しきれないインドネシアとも利害が一致しています。


一方、長期的にはインドネシアの国策に左右される部分が大きく、今回のデモの行く末によっては不透明な要素も多いです。出稼ぎは短期的に国家経済や国民の家計を救う一方、国内の産業競争力強化が進まない限り「人材流出の常態化」という副作用を抱えます。


製造業を中核にした産業高度化(インフラ整備、人材育成、サプライチェーン拡充)が進まなければ、「内需の潜在力を活かせず、出稼ぎ依存のまま」という構造から脱却できません。


「送り出し依存からの脱却」と「国内雇用創出力強化」を同時に進めなければならず、デモの背景にある「公平な国内雇用の欠如」を放置して海外派遣を拡大するだけでは「国内で職を作らず人材を流出させる政府」という批判を招きかねません。


インドネシアは内需が強い経済と言われますが、国内で「労働を吸収できる強い製造・サービス産業」を再構築することで海外出稼ぎへの依存度は徐々に下げていく必要があると思われます。


インドネシアの製造業の競争力が回復すれば、人材の国外流出に歯止めがかかり、日本への送り出しにもブレーキがかかる可能性があります。


犠牲者のご冥福を心よりお祈りするとともに、今回のデモの行く末を見守り、2億7000万人という巨大な人口を抱えるインドネシアの政策がどのように転換していくのか注視してまいります。





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■ この記事を書いた人

株式会社グローバークス 代表取締役 

森永 健太

株式会社グローバークスのChief Marketing Officerである趙小雨氏が船上で撮影した写真。

新卒で川崎重工業(株)に入社後、海外営業および新卒採用リクルーター業務に従事。優秀な外国人の同僚の活躍を目の当たりにする中で、日本の良い製品・サービス・文化を世界に広めるには外国人材の活躍が不可欠であると実感。「外国人財の活躍促進による日本社会の活性化」を通じて、日本企業の国際競争力の向上、労働力不足の解消に貢献したいという思いから、株式会社グローバークスを設立。 中国語および英語対応可(HSK6級、TOEIC905)

慶應義塾大学大学院修了(経営学修士) / 中小企業診断士 






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